消化器に原因があって吐き気が起こる病気
(1)急性胃炎・慢性胃炎
胃の痛み、みぞおち付近の痛み、膨満感や不快感、胸焼けやむかつき、下血などの症状があります。胃壁から強い酸性の胃酸を分泌している胃は、普段粘液で胃酸から自分を守っていますが、なんらかの原因でこの防御システムがうまく働かなくなったり、大量のアルコールや食べ物、刺激物などで限度を超えた時に、炎症が起こります。これが胃炎です。放置していると胃粘膜の修復力が低下し、胃液の分泌量が減ってしまい、胃潰瘍になる場合もあります。
(2)胃潰瘍・十二指腸潰瘍
みぞおちの辺りに痛みが起こることが多いのですが、全く症状を自覚しないまま進行している場合もあります。食後に症状が起これば胃潰瘍、食前だったら十二指腸潰瘍が疑われますが、確定診断には内視鏡検査が必要です。
(3)胃がん
吐き気や腹痛などの症状が現れますが、最近では胃内視鏡検査で初期の胃がんを発見できるようになったため、定期的に内視鏡検査を受けてこうした症状が出る前に治療してしまうケースが増えています。こうした初期の胃がんは、日常生活にほとんど影響を与えずに完治も期待できます。胃がんはピロリ菌との関連が指摘されていることもあり、40歳を超えたら一度、胃内視鏡検査を受けておくことをおすすめしています。
(4)逆流性食道炎
胃酸や胃の内容物が食道に逆流して炎症を起こし、胸焼けなどの症状が現れます。胃粘膜は胃酸から守る機能を持った粘液が存在しますが、食道粘膜にはこうした防御機能がないので、胃液によってダメージを受けてしまいます。有効な治療薬がありますが、再発しやすいため、逆流を防ぐ食事や生活習慣を心がけることも重要です。
(5)感染性腸炎(出血性大腸炎/食中毒)
細菌、ウイルス、寄生虫などによって起こり、下痢、発熱、腹痛、悪心、嘔吐、血便などの症状があります。潜伏期間が長いものもあるため、食中毒だと気付かないで受診するケースも珍しくありません。症状を緩和させる対症療法が主に行われますが、下痢止めなどは、細菌やウイルスが出す毒素の吸収を促進してしまうことがあるため、必ず専門医を受診してください。
(6)腸閉塞
ひどい吐き気があり、実際に嘔吐が起こり、便がほとんど出ないことが特徴です。腹部の手術後の癒着や、大腸がん、腸重積(ちょうじゅうせき)などによるものが多く、入院治療が必要です。食事を止めて安静を保ち、ガスなどが大量にたまっている場合には、鼻からチューブを入れてそれを解消します。場合によっては手術が必要になることもあります。
(7)虫垂炎
痛みの程度や起こる場所に特徴がないため、慎重に見極める必要があります。一般的には「盲腸」と呼ばれています。抗生物質の点滴や内服で治るケースもありますが、状態によっては手術が行われることもあります。
(8)腹膜炎
潰瘍で胃に穴が開いたり、急性すい炎などによって腹膜に炎症が起こる病気です。原因になっている病気の治療とともに、薬物療法を行います、状態によっては手術が行われることもあります。
(9)急性膵炎(すいえん)・慢性膵炎(すいえん)
膵炎は突然、強い痛みが現れることが特徴です。原因にはアルコールや胆石があり、膵臓が腫れるだけでやがて治まる場合もありますが、多臓器不全を起こす場合もあるので注意が必要です。これはダメージを受けた膵臓からしみ出した消化酵素が組織を消化してしまうことで起こります。また、慢性の膵炎は持続的な炎症が起こっています。膵臓は消化と血糖値のコントロールを行うとても大切な臓器ですから、できるだけ早く発見して治療を受けることが重要です。
(10)急性肝炎
主な症状は全身倦怠感や食欲不振、黄疸で、B型肝炎、C型肝炎などの病名が一般的ですが、ウイルス感染が原因です。現在は効果的な治療法が登場してきています。安静でほとんどの場合症状は回復しますが、まれに劇症肝炎を起こすことがあります。
(11)胆石症・胆のう炎
コレステロールや胆汁の成分などが固まったものが胆石で、これが胆のうや胆管にできているのが胆石症です。胆のう炎は胆石症とよく合併して起こり、強い腹痛、発熱、黄疸といった症状が起こります。胆のう炎は、抗生物質の点滴や鎮痛剤などの内服で症状を緩和させますが、胆石症自体の根本的な治療は手術です。
消化器以外が原因で吐き気が起こる病気
(1)尿路結石
背中や腰に突然強い痛みが現れ、吐き気が起こります。痛みが激しいため、救急外来を受診するケースが多い病気です。尿路は尿の通り道の腎臓・尿管・膀胱・尿道で、そこに腎臓から結石が運ばれて詰まり、それにより症状を起こします。結石のサイズが小さければ水分を多く摂取し、運動や薬物療法で自然排出が望めますが、サイズが大きい場合には結石を砕く手術が必要になります。 治療後は結石ができにくい食事などに気を付けることで再発をある程度予防することも可能です。
(2)クモ膜下出血
突然、激しい頭痛や吐き気、嘔吐があったら、クモ膜下出血の可能性があります。これは脳静脈瘤の破裂などによって起こります。頭痛より吐き気が激しい場合もあります。できるだけ早く受診しましょう。
(3)緑内障
突然、激しい頭痛や吐き気、嘔吐がある場合、クモ膜下出血ではなく緑内障という目の病気の可能性もあります。眼圧という眼を丸く保っている力が急激に上昇してこうした症状が現れます。失明の危険性がある病気ですので、注意が必要です。こうした症状で内科や脳神経化などを受診する際には、必ず眼圧を測ってもらってください。
(4)脳腫瘍
頭痛や物が二重に見えるという症状が一般的ですが、腫瘍によって脳が圧迫されて吐き気が起こる場合もあります。
(5)片頭痛
前兆現象があり、その後、激しい頭痛と共に吐き気が起こります。症状は数日続くことがあり、吐き気で薬の服用ができず、重い症状が長引くケースもよく見られます。症状がひどくならないうちに適した治療薬を内服することで強い症状をださないようにコントロールすることも可能ですから、専門医に相談してみましょう。
(6)脳出血
吐き気や嘔吐と共に、めまいが起こります。特に小脳は体のバランスを取る役割を持っているので、この部分に出血が起こる小脳出血ではめまいや吐き気が起こりやすいとされています。
(7)脳震盪
スポーツや事故などで激しく脳が揺さぶられて起こります。吐き気や嘔吐、めまいなどの症状が完全におさまるまで、安静を保ってください。
(8)髄膜炎
強い頭痛や吐き気が起こり、発熱やけいれんが起こる場合もあります。原因はウイルスや細菌で、薬品が原因になる場合もあるとされています。脳や脊髄を覆う保護膜に炎症が起きています。風邪のような症状から数日で重症化し、命にかかわるケースもあるため、できるだけ早く受診しましょう。
(9)心筋梗塞
吐き気と嘔吐に胸の痛みが伴っていたら、心筋梗塞の可能性があります。動脈硬化によって、心臓に栄養や酸素を運ぶ血管が詰まることが原因です。胸の痛みがよくありますが、ただ軽い吐き気があるだけの場合もあります。命にもかかわるため、できるだけ早く医療機関を受診してください。
(10)糖尿病
かなり悪化した糖尿病では、血液の酸性度が高くなる糖尿病性ケトアシドーシスが起こり、脳に神経が運べなくなって吐き気や疲労感、意識がなくなる昏睡などの症状が現れます。この場合、すぐに治療を受ける必要があります。糖尿病があって、吐き気などの症状が現れたら、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。糖分の多い飲料を飲んで急激に起こるソフトドリンクケトーシスもあります。普段から、生活習慣に気を付けてください。
(11)メニエール病
ひどいめまいとともに強い吐き気があり、難聴や耳鳴りなども起こります。耳は音を聴くだけでなく、平衡感覚をつかさどる役目も担っています。内耳に障害が起こると平衡感覚が乱されるため、強いめまいや吐き気が起こります。めまいは目が回る感覚が強いため、眼科だと勘違いされることもありますが、メニエール病をはじめとした平衡感覚によって起こっているめまいの場合、耳鼻咽喉科が専門的な診療を行っています。
病気以外が原因となって吐き気が起こるもの
(1)薬剤の副作用
吐き気が起こる副作用はとても多く、アレルギーによって吐き気が起こっている場合もあります。原因となる薬剤の服用を中止してすぐに主治医に相談し、吐き気が起こりにくい薬剤に替えるなどを検討しましょう。
(2)心因性嘔吐
ストレスなどによる吐き気や嘔吐です。拒食症や過食症による嘔吐も含まれます。吐き気や嘔吐を起こす病気がないことを確認した上で、ストレスなどに心当たりがないかをうかがい、症状を改善するための方法を相談して決めていきます。少しでも症状を軽くするために、気兼ねなくご相談ください。
(3)妊娠時のつわり
吐き気や嘔吐が症状にある女性の診察では、常に妊娠の可能性を考慮する必要があります。妊娠時にはできる検査や治療方法に制限があり、ご本人が妊娠に気付かれていないことも考えて慎重に診察を行います。